なんでもない毎日

学生のなんでもないブログ。ちょっと疲れた時のよりどころになれたら。

お父さん、今幸せですか

特別お題「今だから話せること

 

 お父さん、あなたに会えなくなって10年ほど経ちました。いつのまにか私の前からいなくなったあなたと最後に会ったのは電気屋の駐車場。今でも覚えています。あなたが私に会いたかったのか、父親の体裁上一応会っておいたのか、今でもよくわかりませんが私があの時あなたに会いたくなかったことは確かです。あんな他人の顔をしたあなたに会いたくなかった。実の父親に敬語で話なんてしたくなかった。でも、ろくな思い出じゃないのに、気づけばあなたの影を追っていることも確かです。

 私がまだ小さい頃、二人で行ったお祭りを覚えていますか。人混みが苦手な私は一生懸命あなたの手を握ろうとしました。私が繋ごうとしたあなたの手に握られていたのは煙草。私は手に火傷を負いました。煙草が嫌いになりました。
 あなたに褒められたくて頑張った習い事。子供ながらに両親の不仲を感じ取っていた私は、大会でいい成績をとればきっとまた仲良くしてくれるだろうとおもっていました。ですが、大会で好成績を収めてもその願いは叶いませんでした。「大会で賞状がもらえたらみんなでご飯を食べに行きたい。」その約束が守られることはなく、あなたは来ませんでした。習い事と約束が嫌いになりました。
 あなたと行った家族旅行で覚えているのはひとつだけ。大きな魚を一緒に見たあの時間はとても幸せでした。そこで私の名前に込められた意味も教えてくれましたね。青いお守りをくれたことも覚えています。あなたはどんな願いを私の名前とお守りに込めたのですか。自分の名前は今でもあまり好きになれません。
 あなたのせいで嫌いなものがたくさん増えました。でも、あなたのことが嫌いかと聞かれると答えに困ります。親が子どものことを嫌いになることはあったとしても、子どもは親を嫌いになんてなれないのです。

 家の押し入れの奥深く、隠すように閉まってある家族のアルバム。母親に内緒で見返すことがあります。幼い私を抱くあなたは、一緒にお風呂に入るあなたは、とても幸せそうに見えます。なら、いつからその気持ちは変わってしまったのですか。原因が私にあるのなら謝らせてください。私が生まれた日は嬉しかったですか。私に最後に会った日の帰り道はどんな気持ちでしたか。聞きたいことは山ほどあります。
 親戚に会うと、姉と弟は「母に似ている」とよく言われます。私はというと、きっとあなたに似ているんです。自分でもあなたに似ていると感じることが多々あります。嘘を平気でつけてしまう所、約束を守れない所。ダメな所ばかり似てしまったと思っていました。でもそれだけじゃありません。友人は私を「優しい」と言ってくれます。私はあなたに似ています。友人の言葉が本当ならきっとあなたも優しい人なんだと思います。そうじゃないと私はあなたの事でこんなに悩みません。あなたにもう一度会いたいと思うのは、あなたとの思い出が私の胸の中で涙が出るほど輝いているからです。

 あなたは今幸せですか。どこにいるか、何をしているか、大切な人はいるのか、あなたのことは何も知りません。でも、わたしのことは心配しないでください。私は今とても幸せです。本音を言い合える友人もできました。大切にしたいと思える人もいます。
 あなたがいなくなって辛いこともたくさんありました。欲しいものを我慢した時や学校で父の日に母親の絵を描いた時、動物園で両親に手を引かれる同じくらいの歳の子どもを見た時。でもそんな寂しさも帳消しになるぐらい今幸せです。あなたがいなかったらこんな幸せを感じることはできなかった。感謝しています。一つだけ後悔があるとしたらあなたのことを何も知らないことです。好きな食べ物も、好きな曲も何も知りません。けれど私に似ているあなただから、好みもきっと似ていますよね。好きなものが増えるたびにあなたもそうだったのかなと考える時間は嫌いではありません。

 あなたに「今だから話せること」も「今だから話したいこと」もたくさんあります。でも、あなたには会えません。あなたに会ってしまうと今私の手の中にある幸せが消えてしまう気がします。あなたに会えた後どう生きていけばわからなくなるような気がします。そもそも会いに行ける時間なんていままでたくさんあったのに私の決心がついたからといって会いに行くのはすごく勝手だと思うのです。
 互いに今が幸せなら過去も笑い話だと思えます。幸せになりましょう。長生きしてください。